ブロックチェーン分析企業のElliptic(エリプティック)は、イラン中央銀行が米ドル連動型ステーブルコインのテザー(USDT)を、少なくとも5億700万ドル(約800億円、1ドル=158円換算)相当取得したとする調査結果を公表した。

暗号資産(仮想通貨)を用いた国家主体の資金運用が注目される中、制裁下にある国が、従来の国際金融インフラに依存せずにドル流動性を確保しようとする動きを示唆している。

エリプティックは、イラン中銀に関連付け可能な暗号資産ウォレット群を特定し、そこからテザーが継続的に取得・移動している状況を確認したとしている。

取得額、「少なくとも」5億ドル

エリプティックは、イラン中銀が取得したテザーの合計額を5億700万ドルと推定する一方、この数値はあくまで下限であると明記している。分析対象は「高い確度でイラン中銀に帰属できるウォレット」に限定されており、実際の取得額がこれを上回る可能性を否定していない。

また、2025年4月および5月にイラン中銀がテザーを購入したことを示す流出文書が存在し、支払いがUAEディルハムで行われたとされる。エリプティックはこれを起点に、ウォレット間の送金関係を精査し、イラン中銀が体系的にテザーを蓄積していた可能性を示した。

エリプティックは、この動きが「グローバルな銀行システムを迂回するための洗練された戦略」を反映していると見ている。

2つの危機への対応

エリプティックは、イラン中銀がテザーをどのように活用したかについて「完全な可視性はない」としつつ、2つの危機への対処として整合的であると述べる。

1)国内通貨リアル急落への対応

エリプティックは、イラン中銀のテザー取得が本格化した時期が経済の急激な不安定化と重なる点を挙げる。当時リアルは、対ドルで過去最低水準に達したとされ、短期間で大幅な価値下落が生じていた。

エリプティックは、テザーがイラン最大規模の暗号資産取引所Nobitexへ送られていた点を根拠として、イラン中銀が国内市場へ米ドル流動性を注入し、通貨価値を下支えする目的を持っていた可能性を示す。

2)国際決済の代替手段の構築

またエリプティックは、イラン中銀がテザーを用いて「制裁耐性のある決済・保有手段」を構築している可能性にも言及する。

通常、ドル建て取引はコルレス銀行網やSWIFT等を通じて処理されるが、制裁下では利用が困難となる。そこでテザーを「デジタルなドル口座」に近いものとして運用し、国際取引の決済を代替しようとしている可能性がある。

ブロックチェーンは「可視化」をもたらす

エリプティックは、制裁回避目的の運用であっても、それが不可視化されるわけではないと強調する。

ステーブルコインはTRON(トロン)やイーサリアムといったパブリックブロックチェーン上で移転されるため、適切な分析技術によって追跡が可能となる。加えてエリプティックは、暗号資産エコシステムの要所(取引所、カストディアン等)において制裁管理を実装し得る点は、従来の金融と同様であるとしている。

|文・編集:Shoko Galaviz
|画像:Shutterstock


NEWYEARSPECIAL
創刊特集ラインナップ

New Atlas for Digital Assets ──
デジタル資産市場の「地図」と「コンパス」を目指して