高市早苗首相の名を冠した暗号資産「SANAE TOKEN」をめぐる騒動で、運営元のNoBorder DAOは4日、トークン名称の変更と保有者への補償実施を発表した。金融庁は無登録営業による資金決済法違反の疑いで調査を進めており、政治系ミームコイン発行の法的リスクが改めて浮き彫りとなった。
NoBorder公式Xアカウントは3月4日午前、「Japan is Back」プロジェクトチームとして声明を発表し、一連の騒動について謝罪した。声明では、高市首相公認の後援会「チームサナエが日本を変える」や株式会社neuと協議を重ねていたものの、コミュニケーションや認識共有が不十分だったと説明している。
今後の対応として、以下の3点を実施するとした。
| 対応項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| トークン保有者への補償 | 3月4日正午時点の全保有ウォレットのスナップショットを取得済み。具体的な補償内容は未定 |
| トークン名称変更 | 「SANAE TOKEN」から別名称へ変更し、プロジェクトを抜本的に見直し |
| 検証委員会の設置 | 外部有識者による検証委員会を設置し、事実関係を精査。再発防止策を構築 |
運営側は、トークン販売や手数料による利益を受け取った事実はないとしている。溝口勇児氏は同日、自身のXアカウントで「責任から逃げたり他人へ責任を転嫁するつもりはない」と投稿し、事態収束への対応に取り組む姿勢を示した。
株式会社neuのCEOを名乗る松井健氏は3日、トークン設計から発行に至るまでの一切の業務を同社が主体的に行ったとX上で表明し、公の謝罪を行った。
一方、プロジェクトに関与したとされる京都大学大学院の藤井聡教授は、アプリ内限定の説明だったと釈明。
高市首相の後援会を名乗る「チームサナエが日本を変える」アカウントも、過去の関連投稿を削除し、「暗号資産のような仕組みとは全く違うお話だった」と弁明している。
SANAE TOKEN騒動は、2月25日のトークン発行から約1週間で急展開を見せた。以下は主要な出来事の時系列と市場への影響である。
| 日付 | 出来事 | 価格・時価総額 |
|---|---|---|
| 2月25日 | Solana上でSANAE TOKENローンチ。公式サイトに高市首相のイラスト掲載 | ローンチ直後に急騰 |
| 2月下旬 | 溝口氏がYouTube番組で「高市さんサイドとコミュニケーション」と発言。後援会アカウントがリポスト | 最高値0.027ドル、時価総額2,770万ドル(約42億円) |
| 3月2日 | 高市首相がX上で「全く存じ上げない」と関与を明確に否定(閲覧6,300万回超) | 約75%急落、時価総額は約600万ドル台へ |
| 3月3日 | 金融庁が調査開始。neuのCEO松井健氏が謝罪。後援会アカウントが関連投稿削除 | 下落継続 |
| 3月4日 | NoBorderが名称変更・補償を表明。片山金融相が国会で答弁 | 時価総額約650万ドル(約10億円)、価格0.007ドル前後 |
公式サイトには高市首相の政治経歴のタイムラインが掲載され、「単なるミームではなく日本の希望」と記載されていた。後援会を名乗るXアカウントがNoBorderの投稿をリポストしたことで、プロジェクトへの首相関与の憶測が広がった。
市場データによると、トークン価格はピーク時から約70%以上下落し、時価総額は約42億円から約2,000万円へと縮小。流動性も2万5,000ドルまで減少した。被害総額は数十億円規模と推定されている。
金融庁は3月3日以降、関連業者への調査を開始した。運営に携わった企業が1月末時点で暗号資産交換業者として登録されておらず、その後も申請がないことが確認された。日本の資金決済法では、暗号資産の売買や交換には金融庁への登録が必要で、違反した場合は最長5年の懲役または500万円の罰金が科される。
片山さつき金融相は4日の衆院財務金融委員会で「被害者から告発があった場合、必要があれば利用者保護のために適切に対応する」と答弁。報道では、溝口氏やneu社関係者への聴取も視野に入っているとされる。
今回の騒動は、政治系ミームコイン発行の法的・倫理的問題を浮き彫りにした。米国では2025年1月にトランプ米大統領がSolana上で$TRUMPを発行し、家族や関係者が供給の80%を保有して3億5,000万ドル超の手数料を得た。クリス・マーフィー上院議員は公職者による金融資産発行を禁じるMEME法案を提出している。
同年2月には、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が$LIBRAトークンを宣伝。時価総額は45億ドルまで急騰したが、3時間で89%暴落した。関係者は崩壊前に約1億ドルを抜き取ったとされ、ミレイ大統領は詐欺容疑での捜査や弾劾要求に直面している。
日本の法制度は、より厳格な規制を提供する可能性がある。資金決済法は、トークンの種類を問わず暗号資産取引所の活動を規制しており、金融庁は無認可業者に対して措置を講じることができる。専門家の間では、著名人の名前や肖像を無断で使用することによるパブリシティ権侵害の可能性も指摘されている。
業界関係者は「SANAE TOKEN事件が前例となり、日本の対応が他の規制当局の取り組みに影響を与える可能性がある」と指摘する。現時点で、国際的な枠組みは政治的ミームコインを直接扱っておらず、この空白により個人投資家は著名人に関連したブーム主導型の仕組みにさらされている。日本の暗号資産業界では、プロジェクトの透明性と法令順守がこれまで以上に求められることになりそうだ。

